岐阜建築探訪団

  ライフスタイル提案型集合住宅  
岐阜県営北方住宅

閑静な北方町の住宅地に、独創的な県営集合住宅が、'98年春完成しました。
建築に興味のある私達三人は、今回住人の方の新鮮な声を聞いてみたいと思い、訪ねることにしました。



-妹島棟-
森● 今回訪問した県営北方住宅は、建築家の磯崎新氏のプロデュースのもとに、4人の女性建築家、妹島和世さん、高橋晶子さん、エリザベス・ディラーさんが、それぞれ1棟ずつ設計された建物ですが、実際に目の前にすると、さすがにすごい迫力で、圧倒されるものがありました。
出● まだ北側には古くからある県営住宅が建っていますが、かなり対照的ですね。旧来の方は同じ形態の3F建ての棟がずらりと並んでいますが、新しい方は、4棟それぞれ個性的ですし、高さもかなりありますね。
吉● 美しい建物なので、北方が都会的になったという気がしました。

-ホーリィ棟-
森● 内部も今までの公営住宅の画一的な間取りではない、まったく新しいプランでしたね。
出● 同じ棟でも吹き抜けがあるタイプや、メゾネットタイプのものなど、単に何DKという言葉だけでは言い表せないプランで、従来の公営住宅とは大きな違いがありました。
森● ご近所同士で「今度はお宅を見せてね。」という会話が交わされていましたが、今までの画一的な住宅では、あり得なかった会話でしょうね。
吉● ところで、主婦の感覚として一番驚いたのは、妹島棟なのですが、玄関を入ってすぐにキッチンがあったり、ガラス窓に面した外からまる見えの廊下に洗面台があったり、お風呂の洗い場、脱衣場はどこなのかな?なんて思ったのですが、みなさんはどう思いましたか?
森● 私は妹島棟は特に新しいライフスタイルを提案しているプランだと思いました。中でも窓際の廊下にある洗面所は、開放的でいいと思いますが、生活するのに工夫がいるかもしれませんね。
吉● 妹島棟の住人の60代の主婦の方も「廊下が明るいのは気に入っていますけど、洗面・脱衣はちょっと使いづらいですね。」とおっしゃってました。
出● ところで、話は外部のことになりますが、私は所々に点在している穴のようなテラスがあるというのは魅力だと思いました。高い階に住んでいても専用の庭を持てることで、自然を感じることができるのではないでしょうか。
森● 私もあのテラスはいいなと思いました。使い方しだいではおもしろいスペースになるのではないかと思います。テラスに限らず他にも工夫しだいで思わぬ新しい発見があると思いますよ。
吉● そうですね。工夫することが楽しみになるといいですね。
森● ”工夫する”という意味ではディラー棟の斜めになったリビングは、どうやって使いこなしていらっしゃるのだろうと思いませんでしたか?
(左下へ)
吉● そうですね。使いづらいという言葉が返ってくるのでは、、、と思っていましたが、お話しを聞いた60代の男性の方は「思ったほど使いづらくはないですよ。」とおっしゃっていましたね。
森● 私がお話しを聞いた50代の主婦の方も「収納が多いので以前使っていた家具は全部ふようになりました。」といって、うまく使いこなしていらっしゃいましたよ。
出● ええ。リビングの斜めの押入を飾り棚にしたり、他にも工夫して変化のある部屋を楽しんでいらっしゃいました。設計者の意図した新しい住宅・住まい方を受け止めて、実践していく可能性がみえた気がしました。
(写真右側へ)


出● 出口佳子(二級建築士)
吉● 吉田真弓(主婦)
森● 森本光子
(インテリア・コーディネーター)

森● 次にお話しをお聞きしたホーリィ棟は、特に外観が印象的でしたね。
出● 南側から見ると、生活している人を強く感じました。布団が雑然と干してあって、アジアの底知れぬパワーのようなものを感じたし、外部通路も何だか迷路のようなおもむきがありました。
吉● 子供達が楽しそうに行き来していましたね。
森● 内部はほどんどがメゾネットタイプで、壁面が五角形だったりしておもりろいと思いましたが、家具を置くのに大変なのでは、、、という気がしました。
出● お部屋を見せて下さった20代の主婦の方も「部屋がどこも直角じゃないので、その点は使いづらいです。」とおっしゃっていましたね。
吉● 私は室内が全てグレーなので少し寒々とした印象を受けましたが、シンプルですっきりしていていいなと思いました。
森● 斬新な形態のホーリィ棟でしたが、高橋棟は和室が多くて間取りも昔ながらの民家にも通じるところがあると思いませんか。
吉● そうですね。お話しくださった70代の女性の方も「私達の年代にもいいですよ。畳の部屋が多いし、広くて明るいから気に入っています。」と楽しそうに話して下さいました。
出● 部屋を壁で仕切るのではなく、半透明の建具で間仕切ってあるので、座敷きの障子のように閉めたい時は閉めて、オープンにしたい時は開放できるんですよね。確かに以前の県営住宅より床面積は増えましたが、それよりも壁で仕切られていないおかげでより広く感じられるのではないでしょうか。
森● 北側の外壁も半透明のガラスですから、それも開放感の要因になっているのでしょうね。
吉● 同じ高橋棟でも吹き抜けのあるタイプに住んでいらっしゃった30代の主婦の方は、少し違った感想を持っていらっしゃいましたね。
森● 広くて明るいのは気に入っていらっしゃいましたが、吹き抜けや間接照明などは、あまり意味のないものという感想でしたが、それは少しもったいないような気がしました。
-ディラー棟-
出● 吹き抜けや間接照明など、ちょっとしたゆとりのようなものがあると、忙しい日常生活も少し豊かに感じさせてくれると思うのですが、、、。
吉● ええ。確かにそういった空間はゆとりを感じさせてくれると思いますが、限られたスペースの中では「あの吹き抜けの所が収納庫だったらな」と私もつい機能的な面を考えてしまいました。
森● なるほど、、、。ですが、もしかしたらこれから生活していかれるうちに”意味のあるもの”という感想に変わっていくかもしれませんね。
森● 今回こうして実際に住人の方にお話しをお聞きすることができたわけですが、各棟・間取りのタイプによって思いは違うようですが、今のところ、建物と住人の方との間に距離を感じるところもありましたね。
-高橋棟-
出● そうですね。不特定多数の人が住む集合住宅において個性的な空間を提案しているという点に、この住宅の可能性があると思いますが、同時に問題点も出てくると思います。
吉● 誰にもそれぞれ今までの生活週間があると思うので、多くの住人の方は、この個性的な住宅になじむには、少し時間が必要となるのではないでしょうか。
出● 確かに使い勝手などの不都合は多かれ少なかれあると思います。でも「この家を住みこなしていきたいです。」と語って下さった何人かの言葉を聞いて、建築が住まい手の生活を規定するのではなく、新しい生活を生みだすきっかけになるのではないかと、頼もしく感じました。
吉● そうですね。こんなに話題性のある建物ですから、どのように住みこなしていかれるのか、今後が楽しみです。
森● もう数年後にお話しをお聞きしたら、住人の方の住生活・住空間への意識が大きく変化しているかもしれませんね。いずれにせよ県営北方住宅は、私達にとっても”住もう”ということを再認識させてくれる魅力ある建物でした。